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『既存MIXとの違いは?』


 Spatial Audio  を作り出すにはやはり特殊なミックス手法が必要になります。
まずは DAWの設定として従来のステレオミックス仕様でもバイノーラルのミックスは可能ですが、使用できるプラグインに制限が出ます。
 
前出したプラグインのうち WAVES NXWave Arts Panorama5はステレオ仕様のセッションで使うことが可能ですが、 Audio Ease 360panB-Formatと呼ばれるアンビソニック方式の4チャンネル、また2次Ambisonics(9チャンネル)/3次Ambisonics(16チャンネル)でアウトされるため、セッションを Ambisonicsミックス仕様にする必要があります。また後述する「映像に音を追従させる」ミックスを作るにもこのAmbisonicsミックス仕様にしなければなりません。
 
Pro ToolsではHD Ver12.8.2以降からAmbisonicsに対応しており、I/O設定をすることでAmbisonics Mixingが可能になります。

 

ちなみにこの「Ambisonicsミックス仕様」は単に平面上の前 L,R/後ろ L,R ということではありません。 VR MIXではこれに 『上下の音』の情報も入ることになるので、より複雑な音源の配置、そしてその分高度な音処理をすることが求められます。
 
 
では「上下」はどのような方法で再現するのでしょうか。そこで参考になるのが VR MIC です。
 

 
写真は SENNHEISER AMBEO VR MICですが、正4面体の頂点の位置にそれぞれ単一指向性のマイクヘッドがついている形になります。この4つのヘッドで前後、左右、上下の情報をキャプチャーすることができるのですが、この 入力段階の4トラックを A-Formatそしてそこから前後、左右、上下の情報を抽出するための加減算を施した信号、 W,X,Y,Zになった信号をB-Formatと呼びます。
 
これが「アンビソニック方式」の根幹となるオーディオフォーマットになるのですが、この仕様にするために360pan等の3Dパンナープラグインが必要になるということです。3DパンナーはAmbisonicsエンコードを行い、立体的な空間情報をアウトプットします。
既存のマルチトラックから3Dパンナープラグインを使って音源の配置をすれば、 360度全天球(前後、左右、上下のこと)のサウンドを作り出すことが可能になるのです。
 画像は Audio Ease 360panのプラグイン画面ですが、この 360度の展開図の配置したい場所に音源を定位させていきます。
 

 
この全天球のサウンドを作る上で 最も難しいのがリスナーの後ろ側と上下に音源があるように感じさせること。これまでの正面のL,R空間に音源を配置するには「パンポット」を使い、そこにリバーブやディレイを乗せて奥行きや広がりなどを表現してきました。
正面のL,R間は90度。しかしこの全天球の空間は平面だけでも4倍、それに上下の空間を考慮しなければならないため、さらに難しいミックス技術が要求されます。
あとひとつ大事なのは HRTF(頭部伝達関数)を理解すること。
人は両耳の鼓膜に達するまでの時間差を感じ取って音源の方向を知覚しますが、この 方向による音の変化を表したのがHRTFです。
 
究極のSpatial Audioのモニタリングは、すべての人がその人固有のHRTFを測定することです。
最近になって、SONY 360 Reality Audioが発表したのは、自身の耳の写真を撮影して送るとサーバの膨大なプロファイルの中から”一番似ているデータ”を探し出して送り返してくれるというもの。
 
他にもこのような取り組みが進んでおり、3Dサウンドを最高の状態で再現するための試行錯誤は様々なところで研究開発されているので、今後益々3Dサウンドが注目されていくことになるはずです。
 
 

※画像出典:日本音響学会公園論文集『頭部伝達関数と音像定位を巡る諸問題』より
 

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  PENTANGLE STUDIO  Engineer  飛澤正人

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